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Vol.39
戦争のかおり/Don’t Forget ‘93
Mostal, Bosnia & Herzegovina/ボスニア・ヘルツェゴビナ, モスタル

写真家・竹沢うるまが切り撮る“現在の地球”
いま、世界一周の途中。

車窓の風景はとても良かった。ドゥブロヴニクを出ると、入り組んだ湾に沿ってバスは走る。細長い湾になった入り江の海の色は深い群青色をしていて、その海から密集した緑の丘へとつながる。その海と山が作り出す自然のモザイクの美しさ。

ボスニア・ヘルツェゴビナに入ってからもその風景の美しさは変わらず、より美しくなって行く。小高い山に挟まれた川に沿ってバスは進み、古びた赤瓦の屋根の家屋が緑の森の中に埋もれている。道は曲がりくねり、そのたびに視界が変化し飽きることはない。

南部の街モスタルはそうやっていくつかの山を越えた先にある。

モスタルの街は旧社会主義国家の地方都市といった印象。街の中心を流れる川沿いに広がる旧市街は小さく、そこを外れると、街中には社会主義時代に建てられた建物が並び、雰囲気はあか抜けてなく、間が抜けた感じがする。それに混じってところどころボスニア紛争の際に破壊された建物の廃墟が点在している。その周りには柵がされ、中に入れなくなっているものが多い。近くに行って見ると、たくさんの銃痕が目に飛び込んで来る。その生々しさ。廃墟が紛争時からずっと放置されているので、その傷跡がとても痛々しく感じる。天気も朝からどんよりとした曇りで、途中、雨も降り出し、重苦しい雰囲気があたりに満ちている。

旧市街の街角にいくつもこの石碑が置かれていた

モスタルの街を歩いていると、「Don’t Forget ‘93」と書いた石碑を見かける。それは内戦時の1993年、この街で大きな戦闘があり、街は廃墟と化し何人もの死者が出た経験のことを忘れないためのものであるという。また墓場を通り過ぎたとき、そこにずらりと並ぶ無数の墓石の大半には1993と刻まれていた。それを見ていると、とても生々しく身近に紛争を感じ、心が落ち着かなくなってきた。雨は降り止まず、重苦しい気分が覆いかぶさる。

気持を落ち着かせるため、夕暮れ時、橋の上から川を眺めた。川岸にモスクのようなものがいくつか並んでいて、そこからアザーン(イスラム教の礼拝時間を知らせる肉声の唱句)が聞こえて来た。

山間に響く、透明感のあるアザーン。イスラム圏で聞くあの喧噪的な感じとは違い、声が澄み、穏やかである。そしてそれと同時に対岸からは教会の鐘が鳴り響く。多民族、多宗教という言葉が思い浮かぶ。複雑なモザイクのように入り組んだ宗教と民族で構成されていたユーゴスラビアという国。それが崩壊し、民族紛争へとつながっていった。

アザーンを聞き終えると、寄宿していた民家へと戻った。扉を開くとそのリビングの壁に飾られた、軍服に身を包んだ将校らしき人のポートレイトが眼に入った。家族の人だろうか。いまも生きているのか、それとも戦争で死んでしまったのだろうか。この街ではそこかしこで、紛争の名残を感じることとなる。

旧ユーゴスラビアの国々を旅する意味は、その歴史の生暖かさに触れることにある。歴史の奔流が確かにそこにはあった。

 

写真家・竹沢うるまは今現在、陸路での世界一周の空の下にいる。2010年3月に東京を出発し、アメリカからスタート。中米、南米、アフリカ、ヨーロッパ、中近東、アジアを巡り、日本へと帰る旅。帰国は2011年、場合によると2012年になるという。
目的は“現在の地球の姿”を、その若く瑞々しい感性で写真で記録すること。この連載は、地球のどこかを旅するうるまから届く、生の写真とエッセイをお届けするものだ。 さらに、うるまが本当のゴールとするものは、30年後に再び同じルートで世界を撮影して巡り、写真を比べること。そして、ひとりの人間の半生の間に、地球はどこに向かったのかを映し出すこと。

「私たち人間は、この地球という星のことを、一体どれだけ自分の言葉で語れるでしょうか。“ボクらが生まれた星”はいったい今どんな姿なのか、ひとりでも多くの人に伝えたいと思います」――竹沢うるま

 

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竹沢 うるま
1977 年生まれ。写真家。「うるま」とは沖縄の方言でサンゴに囲まれた島の意。出版社のスタッフフォトグラファーを経て、2004 年独立、URUMA Photo Officeを設立し活動開始。雑誌、広告の分野で活躍し、海外取材は通算100回を超す。世界中の自然を主なフィールドにする自然写真家。現在、世界一周の旅を敢行しながら作品を寄稿中。立ち寄った国はすでに10カ国を超えた。
公式サイト www.uruma-photo.com

著作物
写真集「URUMA –okinawa graphic booklet-」(マリン企画)、「Tio's Island ~南の島のティオの世界~」(小学館から2010年7月20日に発売)。その他ポストカード、カレンダー等。
個展暦
2005年「TWILIGHT ISLAND」(DIGZ原宿)、2007年「Rainbow's End」(Palau Pacific Resort)、2007年「URUMA -日本の異次元空間を旅する-」(丸善・丸の内本店)、2008年「Tahiti ~タンガロアが創った島々~」(PENTAX FORUM)、「Tio's Island」(大手町カフェ) 、2009年「Tio's Island ~南の島のティオの世界~」(KONICA MINOLTA PLAZA)

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いま、世界一周の途中。

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