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Vol.27
終わらないアフリカ
South Africa

写真家・竹沢うるまが切り撮る“現在の地球”
いま、世界一周の途中。

朝、目が覚め、テラスに出て空を眺めると、いつもはそこにはっきりと見えているはずのテーブルマウンテンが、雲に覆われてほとんど見えなかった。時折小雨も降り、気温も低い。

中東からアフリカ縦断を開始し7ヶ月。ようやく辿り着いたケープタウン。あとは最南端のアグラス岬に立ちさえすれば縦断達成である。その瞬間を自分の中で何度か思い描いたのだけれども、そのイメージはいつも晴れやかな空が広がっていた。岬が殺風景だろうが、何も無かろうが、そこには溢れる太陽の光に満ち満ちていてほしかった。光に包まれてその地に立ちたいと思っていたのだが、なかなか晴れる様子はない。

雲は相変わらず分厚く、暗い。でもどこか張りつめた雲の向こう側に、暖かく澄んで真っ青な空が待っているような気がする。昼過ぎ、アグラス岬へ向けて出発した。

車を飛ばし南へと向かう。これまで壊れそうなミニバスばかりで旅して来たけれども、こうやってきれいな車を自分で運転してこの国を見ると、また違って見えてくる。この国はいろんな人種や民族が何層にも分かれて存在している。それぞれの人々の眼には、同じ大地でもきっと全く違うように見えているんだろうと思う。そして、アフリカを縦断して来た僕自身にも。

13時過ぎにケープタウンを出て、いくつかの小さな街を通り過ぎ、16時過ぎにアグラス岬に辿り着いた。その途中、風景を眺めながらいろんなことが頭の中をよぎる。でも不思議と大変だった思い出は、つらい記憶として蘇ってこない。それはどこか微笑ましく、そういえばそんなこともあったな、といった程度の感じである。シリアで警察に拘束されたことも、タンザニアで足の指先に寄生虫の卵を産みつけられたことも、ウガンダで高熱で苦しんだことも、いまではどうでもいい。

頭の中に最も鮮明に蘇るのは、エチオピアのハメル族の村で出会った足のただれた青年のことと、ウガンダの孤児院の子供たちのことばかりである。この縦断の旅の中で、一番印象深かったのはこれらのことだろうと思う。

生きる、ということはどういうことなのだろうか。
幸せとは一体何を以て幸せというのか。その定義は。
そして微笑み。彼らの微笑みは一体どこからやってくるのか。

アグラス岬は、思っていたより殺風景ではなかった。この岬に立つ頃には空は晴れ、雲がいくつか浮かんでいるのみだった。しかし、吹き付ける風は強烈で、波飛沫が岬に舞い上がり、それを猛烈な風が運ぶ。強風によって分断された雲の合間の青空から夕陽がさしこんでいる。しばらく車の中でその様子を眺めながら、人が途絶えたタイミングで外に出た。風に向かって歩き、その地に立つ。

何かここでそれっぽいことを考えたり、言葉を残したいところだけれども、風と波がそれを許さない。記念の写真を撮り、そそくさと車に戻り、押し寄せる高波の向こうに沈む太陽を見送ってから宿に入った。

翌日、空はきれいに晴れ上がり、海岸線沿いを喜望峰まで車を走らせた。

途中、ミナミセミクジラがゆったりと海に浮かんでいた。彼らはいまから海を渡り、南極に向かうのだろう。夏の間そこで過ごし、また来年の冬、この地に帰って来る。その旅路を思い描いてみると、僕のアフリカ縦断なんて、このクジラの旅から比べればなんてことはないと思った。すると昨日から自分の中にある違和感のようなものが次第に大きくなってきた。

それはケープタウンに辿り着いた時からずっと胸の中にあったのだけれども、昨日アグラス岬に立ったとき、どんどんと大きくなり始めた。何か違和感がある。何かが違う。これで本当にいいのだろうか。求めていたアフリカとはこのことだったのか。果たしていま自分は、自身の言葉でアフリカを語れるのだろうか。何かが満たされていない。もっと力強く、生きるエネルギーがこの大陸の何処かに隠れているのではないだろうか。

インド洋と大西洋が出合う喜望峰にようやく到着。

南氷洋から吹きつける風は、体をなでながらそのまま通り過ぎて、北へと流れていく。風が向かう先には更なるアフリカの奥地が広がっている。そこに僕が求めるアフリカがあるのか、それはわからないけれども、そこに何かがあろうとなかろうと、まだまだこの大陸を見なければ、自分自身を納得させられないような気がする。もっと強くその大陸の広さを体で知り、その深さを自分の目で見て頭の記憶の中にもっと重く積み重ねなければ、この大陸を語る資格はないのではないだろうか。

アフリカの縦断は達成した。でも、喜望峰に立った時、それは僕の目標ではなかったことに気がついた。アフリカの旅はまだ終わらない。むしろこれからが本番だと言っても過言ではないかもしれない。

アフリカの旅は、まだまだ続く。

写真家・竹沢うるまは今現在、陸路での世界一周の空の下にいる。2010年3月に東京を出発し、アメリカからスタート。中米、南米、アフリカ、ヨーロッパ、中近東、アジアを巡り、日本へと帰る旅。帰国は2011年、場合によると2012年になるという。
目的は“現在の地球の姿”を、その若く瑞々しい感性で写真で記録すること。この連載は、地球のどこかを旅するうるまから届く、生の写真とエッセイをお届けするものだ。 さらに、うるまが本当のゴールとするものは、30年後に再び同じルートで世界を撮影して巡り、写真を比べること。そして、ひとりの人間の半生の間に、地球はどこに向かったのかを映し出すこと。

「私たち人間は、この地球という星のことを、一体どれだけ自分の言葉で語れるでしょうか。“ボクらが生まれた星”はいったい今どんな姿なのか、ひとりでも多くの人に伝えたいと思います」――竹沢うるま

 

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竹沢 うるま
1977 年生まれ。写真家。「うるま」とは沖縄の方言でサンゴに囲まれた島の意。出版社のスタッフフォトグラファーを経て、2004 年独立、URUMA Photo Officeを設立し活動開始。雑誌、広告の分野で活躍し、海外取材は通算100回を超す。世界中の自然を主なフィールドにする自然写真家。現在、世界一周の旅を敢行しながら作品を寄稿中。立ち寄った国はすでに10カ国を超えた。
公式サイト www.uruma-photo.com

著作物
写真集「URUMA –okinawa graphic booklet-」(マリン企画)、「Tio's Island ~南の島のティオの世界~」(小学館から2010年7月20日に発売)。その他ポストカード、カレンダー等。
個展暦
2005年「TWILIGHT ISLAND」(DIGZ原宿)、2007年「Rainbow's End」(Palau Pacific Resort)、2007年「URUMA -日本の異次元空間を旅する-」(丸善・丸の内本店)、2008年「Tahiti ~タンガロアが創った島々~」(PENTAX FORUM)、「Tio's Island」(大手町カフェ) 、2009年「Tio's Island ~南の島のティオの世界~」(KONICA MINOLTA PLAZA)

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いま、世界一周の途中。

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