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人類初! 成層圏からの超音速ダイブ
フェリックス・バウムガートナー、挑戦の記録

2012年10月14日、高度3万9000メートルから、宇宙服に身を包んだ男が地球に向かって飛び降りた。男の名前はフェリックス・バウムガートナー。彼はその挑戦「レッドブル・ストラトス」によりファウスト・オブ・ザ・イヤー2012を受賞。ファウストではこのプロジェクトが発表される以前より、ファウストな人物として、エクストリームな挑戦を続けるB.A.S.E.(ベース)ジャンパーの彼に注目し、熱いエールを贈ってきた。この日、フェリックスは世界最高の高さと速度によるフリーフォール(乗り物を使わない自由落下)に成功。人類初の記録の達成のみならず、人類の宇宙科学の発展に貢献したのである。ここに、その軌跡をまとめる。

Project

人類と宇宙開発の新たな1ページを拓く挑戦

フェリックスを乗せた気球が青空に飛び立ったとき、現場のスタッフたちは両手を上げて喜んだ。
Felix Baumgartner
フェリックス・バウムガートナー

1969年オーストリア・ザルツブルグ生まれ。オーストリア軍隊でパラシュートジャンプの技術を培う。1997年に米国ウェスト・バージニア州でB.A.S.E.ジャンプの世界タイトルを獲得し、1999年にペトロナス・ツインタワー(マレーシア)でB.A.S.E.ジャンプ世界記録とコルコバードのキリスト像(ブラジル)で世界最短落差B.A.S.E.ジャンプ記録を樹立。2003年にはカーボンファイバー製ウィングを身につけ英仏海峡をスカイダイビングで人類初横断。「2番目では意味がない。世界一を最初に制覇してこそ意味がある」が信念。

アメリカ南西部のニューメキシコ州ロズウェル。明け方、地平線から陽が昇ると、空はピンクとブルーの美しいグラデーションを描いて、今日が雲ひとつない快晴であることをフェリックスに告げた。輝く朝日と穏やかな風は、この砂漠にいたスタッフ全員の胸を躍らせたに違いない。
空がすっかり明るくなる頃、ヘリウムガスが充填された高高度気球は、雫のように伸びて上昇を始めた。やがてフェリックスを乗せたカプセルも宙に浮くと、現場や管制室のスタッフたちからは歓喜の叫びが沸く。――長かった。この日を迎えるまでに7年を要し、一時は計画の中止も危ぶまれた。しかし終に、巨大プロジェクトはこの日を迎えることとなった。

フェリックスという男

2005年、フェリックスとレッドブル社は、生身の人間が飛行の限界に挑戦する成層圏からのフリーフォール計画に着手。「レッドブル・ストラトス」と名付けられたこのプロジェクトは、気球に乗って3万9000メートルの高さまで上昇し、そこから地上に向けて飛び降りるというものであり、それは人類がまだ経験したことのない高度と速度によるダイビングを意味していた。
フェリックスは、世界的に知られたB.A.S.Eジャンパーだ。B.A.S.E(ベース)とは「ビル」「アンテナ」「橋げた」「地球」の頭文字を取った言葉であり、飛行機ではなく建物や崖などからパラシュートをつけて飛び降りる、危険極まりないエクストリーム・スポーツだ。彼はこれまでに、101タワー(高さ509m/台湾)やヴェレビト国立公園の洞窟(深さ190m/クロアチア)などさまざまな場所からダイブしてB.A.S.E.ジャンプ世界記録を樹立してきた。さらに、コルコバードのキリスト像(全長39.6m/ブラジル)では世界最短落差を記録。ドーバー海峡では、1万メートルの高さからカーボンファイバーのウイング(無動力)を背負ってスカイダイブをして、そのまま海峡を横断するという史上初の偉業も成し遂げた。

このレッドブル・ストラトスでは、「最高高度の有人気球飛行」「最高高度からのフリーフォール(スカイダイビング)」「音速の壁を越える人類初のフリーフォール」「最長時間のフリーフォール」の4つの記録に挑戦する。そこには大義もある。未知の領域から彼が持ち帰るさまざまなデータを、これからの航空宇宙開発に大きく役立てるというものだ。
フェリックスは2010年のプロジェクト発表の記者会見でこう語った。「宇宙開発が進むにつれて、超高度で発生する緊急事態を宇宙飛行士が回避する方法の確立が命題となるでしょう。私は、超音速の中で人体がどのように推移するかをこのプロジェクトで明らかにしたいと思います」。音速で落下する人間に一体何が起こるのか? 宇宙服は人間を保護できるのか? GPS機材は機能するか? パラシュートは落下を安定させられるのか? フェリックスはそれらを身をもって証明するのである。

左写真:コルコバードのキリスト像からダイブしようとするフェリックス(2001年12月)。 右写真:2004年10月、ヴェレビト国立公園のMamet穴へのダイブに挑戦。

From Faust A.G. Channel

 

フェリックスの紹介映像

Technology

スーツ、気球、カプセル……肉体の限界超えを可能にする数々の科学技術

ミッション遂行の地には、ニューメキシコ州東部のロズウェルが選ばれた。温暖な気候で広い範囲にわたって牧草地や砂漠が続くロズウェルは、気球打ち上げにとって理想的な場所。ここならば、空における雲の割合が半分以下、視界が1万8288メートル以上、風速が6.44キロメートル以下という、レッドブル・ストラトスに求められる厳しい打ち上げ条件もクリアできると見込まれた。
使用した高高度用ヘリウム気球は、ポリエチレン・フィルム製で0.02ミリという驚きの薄さ。飛行開始時はリバース・ティアドロップ(逆さ涙粒)状に168メートル(550フィート)伸びているが、成層圏では直径130メートル(424.37フィート)にまで膨張し、フェリックスを乗せたカプセルを目的地へと運ぶ。
そして、気球が高度約3万9000メートルに達したとき、そこはほぼ真空状態になっている。普段、我々が乗る飛行機は成層圏入り口の高度約1万2000メートルを飛んでいるのだが、その3倍の高さともなると地球が青く見える宇宙のような空間となる。生身ならば血液が沸騰してしまうため、フェリックスは宇宙飛行士のために設計されたプレッシャー(加圧)・スーツとヘルメットを着用。音速を超えるスピードやマイナス72℃まで下がると予測される温度にも耐えられるように、36ヶ月もの時間をかけて専用に開発されたものだ。このほか、パラシュートやカメラ、緊急事態に備えたバックアップ・セーフティ・システムなど、数多くの最新技術が、レッドブル・ストラトスには注ぎ込まれていた。

バルーン
3600キログラムの負荷重に絶えて上昇する力を持つ高高度ヘリウム気球。目標高度に着くまでの約2時間、バルーンの中のヘリウムは膨張し続ける。わずか0.02ミリの薄さは「ジップロック」の1/10程度で、2回までしか膨らますことができないという。
カプセル
気球がある程度上昇するまで、地上ではフェリックスを乗せたカプセルをクレーン車が吊って追走する。カプセルには、操作システムのほか、酸素タンク、無線機、ナビゲーション装備、応答機、遠隔測定機材を積載。2007年より開発してきた。

プレッシャー・スーツ
マイナス72℃の極寒や摩擦による熱からフェリックスを守るプレッシャー・スーツとヘルメット。フリーフォール用に、空気力学的安定性を考えてデザインされた。パラシュート、酸素シリンダー、GPS装置などを搭載している。

パラシュート
パラシュート・システムはメイン・パラシュート、緊急用パラシュート、制動シュート、酸素システムで構成され、重量は約27キログラム。音速の速さから時速約276キロメートルまで減速しないと、メインパラシュートは使えない。
カメラ
カプセルに付けられた宇宙空間用カメラが、フェリックスをあらゆる角度から捉える。カメラシステム開発は、アポロⅡ号の宇宙飛行士との撮影を含むさまざまなプロジェクトで無重力飛行を記録してきた、ジェイ・ネメス氏が担った。

People

半世紀前の英雄を迎えての最高のチーム

ところで、スカイダイビングにおけるこれまでの世界記録はというと、最高高度は3万1332メートル、最長落下時間は4分36秒、最高落下速度は時速988キロメートルである。驚くことに、これはすべて一人の人間が1960年に作った記録であり、アメリカ空軍のプロジェクトのもとで実現していた。50年以上も前に人間が超高度の上空から飛び降りて生還できることを証明したのは、ジョー・キッティンガー元米国空軍大佐という人物だった。

ミッション当日、記者会見に応じるジョー・キッティンガー氏(左)とフェリックス。1960年8月16日。彼は、3万1332メートルの高さから飛び降りた。約5500メートルの高さでパラシュートが開くまでの4分36秒間、フリーフォールを経験した。

「これまでの間、何人もの人が私の記録に挑み命を落としてきました。しかし、フェリックスの突出した技術、レッドブルによる献身的なサポート、そして編成された優秀なチームにより、今回のプロジェクトは必ず成功するものと信じています」。白髪頭で話すキッティンガー氏は、2008年にレッドブル・ストラトスチームのメンバーに加わった。

プロジェクト中止の危機

チームにも恵まれてプロジェクトは順調に進んだかのように見えた。しかし実は、2010年10月に中断の危機に陥ったことがある。キッティンガー氏の記録を破ろうと成層圏ダイブを計画していた人物が訴えを起こしたのだ。問題が解決するまでの1年4ヶ月間、レッドブル・ストラトスは息を潜めることになる。
やがて2012年春、メンバーは再会。航空宇宙産業のコンサルを担う退役海軍司令官のマール・ヒューエット博士、数々のアスリートを勝利に導いてきた生物力学のアンディ・ウォルシュ博士、宇宙医療と神経学の権威であるジョナサン・クラーク博士など、数々のプロフェッショナルたちが集まり、フェリックスを成層圏に送り出すための準備が再開した。そして、これまでの時間が報われるときを、ようやく迎えたのである。

メディカル・ディレクターを担った、宇宙医療と神経学の権威、ジョナサン・クラーク博士。
プレッシャー・スーツのテスト・アドバイスと管理を担当したマイク・トッド氏。
フェリックスの身体的・心理的サポートの責任者、アンディ・ウォルシュ博士。
プレッシャー・スーツでのダイビングを、マンツーマンでトレーニングしたルーク・エイキンス氏。
打ち上げ手順の指揮など、オペレーションをコーディネートしたマール・ヒューエット博士。
エンジニアリング・プログラムの陣頭指揮を執ったアート・トンプソン氏。

Success

生身の体で経験した超音速の世界

2012年10月14日。気球が地面を離れてから約2時間後、フェリックスは高度約3万9000メートルの成層圏にいた。――大丈夫。7月に行った高度約2万9500メートルでのテストダイブは成功したのだから。さらに1万メートル昇っても、重ねたトレーニング通りに実行すれば上手くいくはずだ。地上では仲間たちが見守っている。
フェリックスは、39のチェックリストすべてを確認すると、カプセルを減圧してドアを開けた。暗い空間の中で青い地球が静かに輝いている。カプセルの外のカメラが、プラットフォームに足を踏み出す彼の姿を映し出す。
まもなく、フェリックスは地球に吸い込まれるように身を投げた。
落下速度は想定を超えた。落下50秒後には音速の壁を突破し、最高速度は時速1342キロメートル(マッハ1.2)に達したのだ! ところが次の瞬間、フェリックスの身体はものすごい速さで回転し始めていた。空気のない高度上空では通常のスカイダイビングの姿勢制御は通用しない。そのため予想されていたことだが回転状態が長く続くと失神してしまう。管制室の映像には食い入るようにモニターを見つめる家族と恋人の姿。キッティンガーが必死にフェリックスに呼びかけ続ける中――なんとかフェリックスは回転を抑え、姿勢を安定させた。まさに起死回生。管制室からは歓声が上がった! 
その後も、フェリックスはキッティンガー氏との交信に応じながら落下を続け、高度2000〜3000メートルでパラシュートを広げた。フリーフォールを続けた時間は4分19秒間に及んだ。
「おーっ!」。砂漠に着地した彼を見て管制室の全員が拍手で喜んだ。しっかりした足取りが、この偉業を難なく達したように思わせたが、後に彼はこう語った。「(体が)回転を始めたとき、2、3回は回るかもしれないと思ったが、回転速度がどんどん速くなっていき、一瞬気を失うかと思った。難しいプロジェクトだった」

地上に帰還し喜ぶフェリックス。

フェリックスとそのチームは当初4つの世界記録を目標にしていたが、フリーフォールの最長時間4分33秒は超えることはできなかった。そして、最終的には、新たな記録を1つ加わえ、計3つの記録を樹立した(FAIに申請中)。この瞬間は全世界で生中継され、人々はデアデビル(命知らず)と呼ばれたひとりの男と、それを全力でサポートしたいち民間企業による、大いなる夢の実現を固唾を飲んで見守り共有した。そして彼の挑戦は、これからの宇宙空間の安全性の発展のために、多くのデータが共有されていくのだ。こうして7年の歳月をかけたレッドブル・ストラトスは、人類の新しい1ページを開く、歴史に残るプロジェクトとなったのである。

今回達成した世界記録

音速を越える人類初のフリーフォール/時速1342.8キロメートル(マッハ1.2)

最高高度からのフリーフォール/高度3万9045ートル(128,100フィート)

フリーフォールにおける最長垂直落下距離/3万6529メートル(119,846フィート)

注:数字は認定されるまで暫定となります。

レッドブル・ストラトスの今後の協力

・ 動きやすさと視覚の強化を含む次世代の宇宙服開発と、乗客および乗組員を宇宙空間から脱出させるための新たなシステム開発の支援。

・ 高高度・高加速度への対応のためのマニュアル作成の協力。

・ 超音速の加速および減速による、人体への影響の調査への協力(最新のパラシュートシステムの開発を含む)。

From Faust A.G. Channel on [YouTube]

ファウストA.G.アワード2012授賞式で公開されたフェリックスからのビデオメッセージ。本人の解説とともに落下映像をご覧いただけます(2分55秒頃から)。
★【YouTube:FaustA.G.チャンネル】でもご覧いただけます(スマートフォンの方 はこちらがオススメ)

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