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パラドックスの世界
ヴァンサン・シャプロン ドンペリニヨン醸造者

フランスが誇る佳酒、シャンパーニュ。その王道を歩み続けるドンペリニヨン。17世紀末、オーヴィレール大修道院のセラーマスターだったピエール・ペリニヨン修道士が、生涯をかけて生み出したシャンパーニュは、時のルイ14世をはじめ、300年の時を経た今もなお世界中のシャンパーニュファンを魅了しています。
ドンペリニヨンが守り続ける二つの哲学。ヴィンテージ・シャンパーニュであること、白ブドウのシャルドネと黒ブドウのピノ・ノワールをアッサンブラージュ(ブレンド)すること。そして、アッサンブラージュの後、最低でも7年、エノテークで13年、更に20年にも及ぶ熟成の時を過ごします。長い熟成を経ても、ドンペリニヨンを口に含むと、味わいのパラドックス「凝縮感とフレッシュさ」を感じることができます。
そのパラドックスの秘密に迫るべく、来日した、ドンペリニヨン醸造最高責任者リシャール・ジュフロワ氏と共に醸造に携わるヴァンサン・シャプロン氏とテイスティングに臨みました。







――ヴィンテージ・シャンパーニュの熟成期間は法律で最低3年と定められていますが、ドンペニヨンは最低でも、その規定の倍以上の7年という非常に長い熟成をしますね。
長期熟成における熟成のピークについて教えていただけますか?

長期熟成の大きな節目は3回です。ピークを迎える時「窓が開く」という表現をしますが、一度目に窓が開くのは一次発酵の後、ボトリングしてから、6,7年後です。この時点では、まだ「生まれたばかり」のシャンパーニュで、純粋さや更なる熟成へのポテンシャルを持ち合わせています。
二度目に窓が開くのは12~20年後です。この時期はいわば「思春期」で若さと熟成の両方を感じることができます。そして最後の窓が開くのは20年以降です。「大人」になり、変化を遂げる最後の節目となります。これ以降は大きな変化はなく、優しさに包まれ、すべてが融合されてゆくのです。人生と同じです。 リシャールと私は飲む人に、人生の節目を味わってもらいたいという気持ちでドンペリニヨンを作っています。

――「ドン ペリニヨン1996」と「ドン ペリニヨン エノテーク1996」を例に解説をお願いします。
シャンパーニュのグレート・ヴィンテージと言われる1996年はブドウの糖分と酸味のバランスが良く、驚きの連続でした。「ドン ペリニヨン1996」と「ドン ペリニヨン エノテーク1996」は、
一次発酵を経て、ボトリングするまでは同じ工程です。ヴィンテージ1996は瓶内での熟成後、澱引きをして2004年に発売、一方、エノテーク1996は2008年まで瓶内で澱と共に熟成を重ねました。澱により、豊かなアロマやテクスチャーを保ちながら複雑さをもたらすのです。

――ヴィンテージ1996は活発な酸と骨格のあるボディを、エノテーク1996は繊細な酸とデリケートな凝縮感を感じます。どちらも、フレッシュさと熟成感、相反するものが味わいに反映されていますね。
ドンペリニヨンの特徴の一つはパラドックスです。味わいだけではなく、私たち醸造家には17世紀にピエール・ペリニヨン修道士が生み出したシャンパーニュの製法を引き継ぐということと、新しいヴィンテージを作るというミッションがあります。これもパラドックスなのです。パラドックスがあり、そこに緊張感が生まれ、誰もが飲みたくなるシャンパーニュとなり、飲んでも味わいのパラドックスを感じて謎が残る、その謎もドンペリニヨンの魅力の一つです。

――セパージュ(ブドウ比率)が非公開なのもミステリアスだと思います。
  比率は平均してシャルドネとピノ・ノワールが半分ずつです。ただ、私たちは、その年その年の個性を出しながら、ドンペリニヨンならではの味わいのバランス、つまり、パラドックスの中にある滑らかなテクスチャーを表現しています。ですから、ブドウ比率の数字は後からついてくるもので公表していません。年によっては比率が極端に動くこともあります。過去の例では1976年はピノ・ノワールが濃縮したため、シャルドネを少し多くアッサンブラージュしました。

――ドンペリニヨンを作るということは’creation’だと思いますが、ヴァンサンさんはどのように考えていますか?
そうですね、まさにクリエーションです。そして私はクリエーションには二つの要素が必要だと考えています。一つはクリエーションに必要なインスピレーションを得るため、外部から得た刺激を自分のなかに統合すること。さらに、その統合した刺激を自分のフィルターを通して表現すること。それは様々な形で表現できると思います。その一つがワイン作り、つまりシャンパーニュです。
そしてもちろん、クリエーションに必要な道具を使いこなす技術は必要ですし、インスピレーションだけではない感覚、例えばドンペリニヨンの場合は、熟成が非常に長期に及ぶので、時間の感覚を身に着けなければなりません。「慌てずに考え、行動すること」を体で覚えて、長い時間のなかでクリエーションの管理をすることが大切だと感じています。

――共に仕事をしている醸造最高責任者のリシャール・ジュフロワ氏について教えていただけますか?
リシャールはカリスマ性があると同時に指導者としても大変優秀です。今まで彼と一緒に仕事をしてきて、私に仕事を教えてくれるのがとても上手だと感じました。そして、豊かな感性を持っています。彼の感性は、多くの旅をすることによってさらに磨かれています。それは、行く先々の文化を吸収する大きな力が彼には備わっているからです。
さらに彼のすごさは、仕事に対する厳格さです。決して諦めない、最高のものを作るという強い信念を持ち続ける強い意志があるところです。ドンペリニヨンを作るか否かの最終決定を下すのは彼ですが、その決定をすることも非常に大きなエネルギーが必要なのです。

――ボルドー出身のヴァンサンさんがシャンパーニュに来た最大の理由はなんでしょうか?

(笑いながら)「私がシャンパーニュ地方出身でないことはドンペリニヨンにとって最大の欠点だ」とリシャール(※)にもよく言われるのです。勿論冗談ですよ。
シャンパーニュに来たのは、自分の視野を広げるためです。学校でブドウ栽培、醸造学の勉強をしていたとき、自分にはまだ足りないものが多いと感じて訓練を繰り返し、勉強を続けました。卒業後、チリでニューワールドのワインを学び、故郷ボルドーでも経験を積み、もっと新しいチャレンジをしたいと思いました。ドンペリニヨンでリシャールと一緒に働くことができるのは、非常に大きなチャンスに恵まれたと思っています。
※リシャール・ジュフロワ氏はシャンパーニュ地方ヴェルチュ出身

――ヴァンサンさんはシャンパーニュに来ることで新しいチャレンジをされたのですね。
ではドンペリニヨンにとって今後のチャレンジというものは何でしょうか?

まずコマーシャルの観点からいうと、これから先、今まで以上に活発なPRを世界中に展開してゆくことだと思います
そして醸造家として言うと、ドンペリニヨンを作ること、そのこと自体が挑戦です。ご存じのとおり、毎年ドンペリニヨンを作るわけではありません。グランクリュ(特級)の秀逸なブドウがドンペリニヨンに相応しいかを判断し、ドンペリニヨンを作るか否かを決定する。10年をスパンとしてみると、ドンペリニヨンを作るのは平均して3年です。その年、その年にドンペリニヨンを作ることで、この年にはこんな味わいや個性があるという新しい発見をすること、そして長い熟成によって味わいの変化を見届けること、それがこれからも続くチャレンジです。

今では、多くのシャンパーニュメゾンが、ノン・ヴィンテージのシャンパーニュを主流に、シャルドネだけで作る「ブラン・ド・ブラン」や黒ブドウ(ピノ・ノワール、ピノ・ムニエ、もしくは両方を使う)「ブラン・ド・ノワール」のシャンパーニュを作るのに対し、ドンペリニヨンでは、あくまでもヴィンテージ・シャンパーニュを作ることを貫いています。2人の醸造家に引き継がれるピエール・ペリニヨン修道士のDNAは、この先も変わることなく続いてゆくことでしょう。

 

ヴァンサン・シャプロン
Vincent Chaperon。1976年生まれ。ボルドー出身。ボルドー大学で科学、生物学を専攻。モンペリエ高等農業学院でブドウ栽培、醸造学の学位取得。チリ、ボルドーにてワイン作りの研鑽を積む。1999年モエ・エ・シャンドン社入社。2000年、24歳の若さでドンペリニヨンの醸造補佐に就任。醸造最高責任者リシャール・ジュフロワ氏と共にドンペリニヨンの醸造を担当。

ティスティングコメント

ドン ペリニヨン1996

香り…… 白桃、砂糖漬けのレモン、ヴァニラ、プラリネ、ホワイトペッパーといった繊細できりっとした香りが次々と現れる。

味わい…… 勢いとコクのある深水が同時に存在するパラドックスとしっかりした骨格。抑えられていたエネルギーが一瞬のうちに、共鳴してほとばしり、強い主張のある説得力のある豊かさへと変化。

 

ドン ペリニヨン エノテーク1996

香り…… プラリネのアロマはすぐにシトロン、乾燥イチジクと混ざり合い、ヨードやビート香を感じさせるノート。

味わい…… 凝縮感と生きいいとした味わいのパラドックス。その芳醇な力強さが口いっぱいに広がり、繊細な豊かさが見事なまでに力強くいつまでも残る。

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