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Vol.2 
試練の雨か? 波乱の幕開けの前兆か?!

意気揚々と乗り込んだ鈴鹿。
Faust RTは土砂降りの雨に迎えられる。
S耐に挑む3人のドライバーたちの胸中は……。
開幕戦の模様を振り返りながら、
医師である安藤琢弥の想いに迫る。

登場は水煙とともに

 水しぶきを上げながら鈴鹿サーキットを疾走する一台のポルシェ。カーナンバーは「9」。本戦を3日後に控えた「Faust Racing Team」(以下、Faust RT)の車体が、まとわりつく激しい雨を切り裂きながら、西コースのピット前を走り抜けていく。
鈴鹿──。世界最高峰のモータースポーツレース「F1」が20年にも渡って開催されてきた場所である。クルマ好きでなくとも、このサーキットの名を一度や二度、耳にしているはずだ。
その鈴鹿を、耳慣れないチーム名のポルシェが疾駆している。ドライバーも聞き覚えがない。テスト走行に参加した他のチーム関係者は、興味深げにカーナンバー9を眺める。それは、雨中のリアタイヤから巻き上がる水煙のごとく、霧の向こうの実体のつかめないマシンとして映っていたに違いない。

※ ドライバーたちの友人、森田恭通氏がデザインを担当。「煙」をイメージしてボディにレイアウトしてくれた。「本来はつかみどころのない話を並べて驚かしたり、煙に巻いたりという意味で使われるが、レース中ライバルを“出し抜く”という意味に使いたい」(森田氏)。

鈴鹿が開幕戦となった2008年の「スーパー耐久シリーズ」。ST1カテゴリにエントリーしたFaust RTの登録ドライバーは3人。いずれもプロレーサーではない。レースの世界ではなく、実業界や医療界においてトップと凌ぎを削りながら走り続けてきた男た ちである。鈴鹿では、誰も彼らを知らなくて当然なのだ。
3人は、4月27日の本戦に向けてテスト走行に参加し、少しでも鈴鹿に慣れておくつもりだった。あいにくの土砂降りの雨中、インテリアデザイナーの森田恭通氏が車体デザインをほどこした煙模様のポルシェ(※)で、まさに他チームを煙に巻きながらテスト走行に臨んでいた。

とまどいを胸に

「コースに川が流れていた」とつぶやきながら、安藤琢弥がピットに戻ってきた。
「耐久は1人でスプリントを走るのとは違うから、今までとはちょっと違う緊張感を持っています。本戦で走れなければ意味がないから、慎重に……でも攻めないとっていうプレッシャーもあって、まだうまく心の整理がついてないかも」

静かな語り口のなかに、まだ気持ちの準備の整わない自分にとまどいを感じているようだ。
クルマのことを聞くと、ポルシェがイチバン好きで、フェラーリも好きだと言う。まわりの友人に「節操がない」と言われても「そこは譲れない」と笑いながら 頑固に答える。それでも鈴鹿へは、「これなら許してもらえるかな(苦笑)」と“おちゃめ”にマセラティに乗って登場した。
「本戦では納豆走法だ」と再びつぶやくように言い残して、ピットをあとにした。

うまくなりたいが故に

朝から降り続いた雨がようやく上がり、路面の一部にドライな部分が見え始めた難しい状態の頃。もうひとりのドライバーである堀主知ロバートが、安藤に替 わってコースへと出る。待ってましたとばかりに、ポルシェのエンジン音を高らかに残して、ダンロップコーナーを駆っていく。世界に誇る高速テクニカルコー スである鈴鹿を、少しでも多く周回を重ねておきたいと思う気持ちが、車体の挙動にも表れている。
「鈴鹿では、圧倒的に経験値が足りないのがイチバンの不安。昔、カートで南コースを乗った記憶だけ。本コースは初めて……」
「やっぱり上手になりたい」という熱い想いだけで出走を決めたS耐。生半可なステージではないことはわかっている。ドライバーもチームも本気でぶつかり合う“高み”での闘いをあえて望んだ。当然のことながら、初戦への意気込みも半端ではない。
「鈴鹿の初走りは、もっとイイ状態で体感したかった」。何よりの本音である。

難コースを相手に

 Faust RTのクルーがスリックタイヤを用意している。路面はいつの間にか随分と渇いてきた。最後のドライバーとなる佐藤茂のときは、レインタイヤからスリックに変える手はず。
手にした鈴鹿のコース図をじっと見ながら佐藤が一言。「長距離は好きだし、ラリーをやっていた経験からも眠くなければ何時間でも走れますよ。ただ、鈴鹿のコースが難敵なんですよ」
堀から乗り替わったカーナンバー9を操り、慎重にコースへと入っていく。微妙に濡れている路面が気になりナーバスになっているのか、タイムは思うように伸びていかない。初めて走る鈴鹿にも関わらず、この中途半端な路面は不運としか言いようがない。

わずかばかり赤みを帯び始めた西の空には、午前中には見られなかった雲の切れ間が顔を出していた。本戦まで、あとわずか3日。やれることは限られている。

歓喜の瞬間を思い描き、いざ初戦に挑む!

プロでも難しい鈴鹿で完走することができるのか?
高みを目指す男たちの真剣勝負が今はじまる。


 

完走して次戦のために

4月27日──本戦。
スーパー耐久シリーズ2008第1戦「鈴鹿スーパー耐久500km」は、ローリングスタートで始まる。耐久レースではよく使われるスタート方式だ。予選 タイムの結果順でスターティンググリッドからスタートし、1周後(フォーメーションラップ)にホームストレート上で静止せずに加速してスタートとなる。
前日の予選でFaust RTは19番手スタートとなっていた。カテゴリから考えれば、少なくとも一桁グリッドでなければならなかった。そんなことは、ドライバーもチームも、痛い ほどわかっている。チームを率いる監督・見崎清志が、そんなチーム状態を冷静に分析して代弁してくれる。
「はじめての本格的なレースで、まともに走っているほうだと思いますよ。そう簡単にタイムは出ません。とくにこの鈴鹿はそう」
鈴鹿はプロレーサーでも難しい、奥が深いから面白い、と付け加える。名レーサーでもある見崎氏が言うのだから間違いない。
「われわれの目標としては、順位はもちろん欲しいけれど、とりあえず完走ですね。最後まで走りきって、次のレースまでにイメージを持ってもらう。それを次のレースに生かすというのが目標ですよね」
まずは完走。しかし、本当の狙いは順位のジャンプアップ……。このままでは終われない、と誰しもが思っていた。

後位にいたが故に

 いよいよスタートの瞬間を迎える。
1番手を任された安藤が乗るカーナンバー9にクルー全員の視線が集まる。フォーメーションラップを終えて、ホームストレートに入ってきたマシンたち。ス タートランプがグリーンへと変わった瞬間、各マシンのエンジンが一気に咆哮し1コーナーへと殺到する。安藤のマシンも遅れずにその一群へと突っ込んでい く。
無事にスタートを切れたことを見届けたチームクルーとドライバー2人が、ひとまず安堵の笑みを浮かべた次の瞬間。ピットに吊り下げられたモニタに、予想もしてなかったボードが映し出された。
カーナンバー9に対して「DP」と表示されている。DPとは、ドライブスルーペナルティのこと。何らかの違反行為を罰するために、対象マシンはレース途 中でピットレーンを通らなければならない。ピットレーンは制限速度が決まっているので、減速して通過する必要があるのだ。つまり、大幅なタイムロスとな る。
ペナルティは、ローリングスタート時の追い抜き行為に対して。安藤のカーナンバー9は、グリーンシグナルの前に、前方グリッドのクルマを追い抜いてし まった。ポルシェの加速性能ならば、ST3、ST4のマシンを一瞬で抜き去るのはたやすいこと。後位にいたが故のアクシデントである。
順位は20番手へと下がってしまう。

それでも、ラップを重ねていくと、安藤のマシンは自己ベストを叩き出し始める。「ノってきた」とチームクルーのひとり。

名古屋に居を構える安藤は、3人のなかでイチバン鈴鹿を知っている。チームを束ねる志村芳一チーフはそれを見込んでいた。
「一番手は安藤ちゃんでよろしくね。まずは、イチバン鈴鹿を知ってるんだから、うまくチームを盛り上げてってよ」
その通りに事が運びつつあった。

少年時代からの夢のために



 志村氏の言葉どおり、安藤は鈴鹿に所縁があった。かつて、鈴鹿で行われていた若手ドライバーの登竜門「フレッシュマンレース」に参戦していたのだ。18歳の頃である。
学生だった安藤は、勉学に勤しむ傍ら、バイトで貯めたお金をすべてレースにつぎ込む生活を送っていた。授業で書かなければならないレポートも多かったが、それと同じくらいに、スポンサーへ出す企画書や報告書の作成に追われていたと言う。
「結構、(鈴鹿に)通ってましたね。ホイールやオイルなどは、地元のクルマ屋さんが提供してくれました。割とまだモータースポーツに理解があった時代でした。中番手くらいの順位でもバックアップしてくれるお店がありましたから」

少年の頃からクルマが好きで、多分にもれず安藤もレースやスポーツカーに憧れていた。その想いを実現するべく、学生時代はお金を捻り出しながらレースに参戦していた。あれから二十数年の時が経ち、今は随分と純粋にレースへと取り組めて嬉しいと語る。
「今も周りの人たちの協力があってレースができているけど、学生のときのような苦しさはないかな。スポンサーへの反省文の提出とか(笑)。あ、でも違った 難しさがありますね。見崎さんに怒られながら走っています。『もっと攻めなきゃ、運転がやさしすぎるよ!』って無線から。医者をやっていると闘争心とか無 縁になってくるから、気持ちを前面に出すのが大変。むしろ対極ですよね。普段から闘争心をむき出しにしているお医者さんにはかかりたくないでしょ(苦 笑)」

医師である安藤にとって、闘争心や競争心は無縁だと語る。だからこそ勉強になるとも言う。「厳しさやメリハリを学んで、経営に活かしていけるかも」と。

周回を重ねるたびに

 順調に周回を重ね、瞬く間に2番手の堀へと乗り替わる27ラップが近づく。 安藤の駆るカーナンバー9がピットに舞い戻ってくる。ドライバーは、安藤か ら素早く堀へとチェンジ。くたびれたタイヤを履き替えて、給油を行うFaust RTのクルーたち。そして、数十秒後。カーナンバー9は、堀をドライバーにしてコースへと飛び出していく。

戻ってきた安藤は、開口一番。
「ショック。スタートで出てないと思ったんだけどな〜。ごめんなさい!」
絶妙だと思われたスタートがペナルティになってしまったことを悔しがる。熱気で顔を真っ赤にしながら、何度も「おかしいな〜」と小さな声で繰り返す。

タフなレースを乗り切ったあとに

 ピットに戻ってきたカーナンバー9。佐藤へとバトンタッチした堀は、「暑い、暑い!」と冷風を求めてピット裏へと駆け出る。
「途中で、暑さからか頭がボーっとしてきてね。気持ちも熱くなってるから、130Rでブレーキ踏みながら、クラッチ切らずに5速に入れようとしている自分 がいたりして。それくらい頭がどっかにいった瞬間があった。無線に向かって『なんかしゃべって〜、おもろいこと言って〜』って叫んだり(笑)」
27ラップの激走を少し興奮気味に振り返る堀。語られる言葉よりもずっと、タフなレースであったに違いない。止めどなくしたたる汗と、上気した顔が物語る。

堀からバトンを受け取った佐藤が、徐々にタイムを伸ばしていく。
「仕事と一緒で結果だけは出さないといけないからね」
そう言って、コースに出ていった佐藤は、遠慮がちだった予選走行とはうって変わった走りを見せる。その影には、見崎監督の無線越しの激もあった。
「もっと出せるよ、まだまだ! はいっ、ブレーキ!」
慎重に走る佐藤へ、アグレッシブな指示出しで見崎監督が誘導。そして、その声に見事に応える佐藤。安藤、堀と同様に、レース中に自己ベストタイムを次々と更新していく。

すべては富士で結果を出すために

 そして、Faust RTに初めての歓喜が訪れる。3時間20分58秒390という記録。81ラップの闘いだった。
最終結果は総合で17位、ST1カテゴリでは全5台中4位。12ポイント(開幕戦のボーナスポイントあり)をゲットした。

佐藤がゴールした瞬間、誰もが細かい結果など気にしていなかった。まずは3人がしっかりと乗り繋いでマシンをゴールさせたこと。それが何よりも大事だった。
完走したドライバー3人は、クルーたちとがっちりと握手を交わした。

「完走してよかったですよ。目標でしたから。完走して何事もなく、ドライバーもクルマも無事に帰ってきて良かったです。完走しないと次につながるものが無いですから。とりあえず達成しました」
見崎監督が3人のドライバーを称える。
「『ドライヴィング・オン・ジ・エッジ』。僕の好きな言葉です。いつもエッジで運転しろよ、いつもギリギリで、と。そうした状況の中では、明日のことや、 今のことや、お金のことや、生活のことは考えている暇がない。3人が3人とも第一線の経営者や医師であるこのチームは、普段レースとは対極にいる彼らが挑 んでいる。それがまたいいじゃないですか」
ビジネスのときの頭を完全にスイッチオフしないとこの世界は生きていけない。
まずは第1戦。結果を残すことに成功した。プロドライバーでなくとも、本気の闘いに挑んでいる3人に、周囲は大いに期待している。

レース後の控え室にて。

「表彰式やってるね〜。悔しいから見たくないね」と堀。
「まだ3つありますから。きちんと準備して、次!」と佐藤が言えば。
「若い頃を思い出して、富士ではガンガンに行かないと」と宣言する安藤。

Faust RTにとって、鈴鹿はあくまでも序章。本当の試練は富士スピードウェイで待っている!? ……第3話につづく。

Data

スーパー耐久レースのオフィシャルサイト

http://www.so-net.ne.jp/s-taikyu/

もてぎテスト走行のリザルト

http://www.so-net.ne.jp/s-taikyu/2008/testday/result/

Faust Profile

堀主知ロバート(IT企業グループ会長兼CEO)

20代から5年ほどカートレースにのめりこむも資金難で引退。会社経営者となったその後は、事業に邁進するかたわらウェイクボードの選手としても活躍し、数々の大会での優勝経験を持つ。30代でクラシックカーレースに参戦し、カーレースの世界に復帰。

佐藤茂(某企業の要職)

大手企業の要職に就いている。かつては、海外のラリーレースに精力的に参戦し、ラリードライバーとしてのキャリアを積んできた。歴代のランサーエボリューションを乗りつなぎ、砂道や雪道を得意としている。

安藤琢弥(医療法人グループ理事長)

中京地区にある医療法人グループの理事長。自動車免許を取ってすぐに、自動車レースの面白さにハマり、しばらくはいくつものワンメイクレースに参戦して腕を磨く。臨床家の医師として、また経営者としても忙しくなり一度レースから離れるも、ここ数年、再びレース場へ顔を出すようになる。

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ファウスト・レーシング・チームのオフィシャルスポンサー
「PIUBELLO」(ピュウ・ベッロ)

http://www.piubello.co.jp/

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