HOME > MASTER > 大空の覇者へ! > 複雑に交錯する感情~レッドブル・エアレース第5戦ポルト編~

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霧に封じられた“思惑”

ポルトの歴史街区を背景に飛行機が空を切り裂く。 シーズン開始前から、室屋はこの第五戦に上位進出の狙いを定めていた。

旧市街そのものが歴史地区として世界遺産に登録されている港町ポルトは、その日、
まぶしいばかりの太陽に照らされていた。

9月11日、レッドブル・エアレース第5戦トレーニングセッション。会場となるドウロ川の両岸には、朝から多くのエアレースファンが集まっていた。ところが、1本目のスタート予定時刻である10時を過ぎても、いっこうに飛行機が姿を現さない。こんなに天気がいいのに、何かトラブルでもあったのかと、いぶかるファンたち。だが、理由は単純だった。

大西洋に流れ込むドウロ河口から3、4km離れたレース会場の好天とは対照的に、大西洋沿いに設置された室屋たちがスタンバイする飛行場は、海からの霧にすっぽりと覆われてしまっていたのだ。これでは飛行機も飛び立つことはできない。1時間、また1時間とスタート時刻を後らせ、日没ギリギリまで待ったものの、前日に続き、トレーニングセッションはすべてキャンセルとなってしまった。

室屋義秀にとって、またもやこれは大きな誤算だった。

実はシーズン前から、室屋はこのポルトでの第5戦に上位進出の狙いを定めていた。
それまでに4戦をこなし、レースフライトの基礎技術が身につけば、このあたりから勝負になるだろう、という読みももちろんあったが、それだけではない。

まずは、ポルトのコースが直線的なスピードコースだということ。つまり、トップパイロットに比べて技術で劣る室屋にとっては、その差がつきにくいコース、ということになる。
また、コースと機体の相性がいいことも分かっていた。室屋が操るエッジ540は、室屋担当のコーチを務めたスティーブ・ジョーンズが昨年までレースで使用していた中古機なのだが、ポルトでは昨年が2位、一昨年が優勝と、抜群の実績を誇っていたからだ。

ところが、今シーズン最大のターゲットにしていたレースで、1度もレーストラックを飛ぶことなく、予選当日を迎えることになってしまったのである。

翌日、予選当日もまた、霧が予想されたため、まずは朝8時、わずかな霧の晴れ間を狙って、レース会場よりさらにドウロ川上流に位置する仮設の飛行場へ全機が移動。そして予選開始を前に、10時から急きょトレーニングセションが行われることになった。

慌ただしいなかで飛び出した1本目のトレーニングセッションでは、パイロンヒットを含め、10秒のペナルティを受ける散々な出来。
「これは、まずいな」
室屋は少なからず焦りを感じていた。

セカンド プレイス!

翼をひるがえし、シケインを縫って飛ぶ室屋機。

見事4位に食い込んだ予選1本目、快心のフライトムービー公開! 予選2本目に向けて待機する室屋機。 予選2本目も納得のフライトだったのだが……。

シーズン前の目論見は、早くも崩れつつあった。それでも室屋は気を取り直して、1本目のフライトをビデオでチェック。修正点を確認すると同時に、機体にも手を加えた。主翼についている補助翼にテーピングを施したことで操縦感覚が変わってしまったため、これを取り除いた。本来なら前日までにやっておきたかったことだが、今さら泣き言を言っても仕方がない。こうなった以上、できる限りのことをやるしかなかった。

落ち着きを取り戻して臨んだ2本目。室屋はノーペナルティで周回しきった。
「2回目のフライトで完成……とまでは言わないですけど、だいたいオーケーというところまで持ち上げてきたという感じでした。仕切り直して、頭を切り替えて2回目に臨めた。焦りもあったけど、飛ぶ前にリセットできたという感じです。それができたのは、これまでの成果だと思います」

不測のトラブルに見舞われても、もはや今までの室屋ではなかった。それは彼の言葉以上に、結果が雄弁に物語っていた。

そして迎えた予選1本目。14番スタートの室屋は、ここで驚愕のタイムを叩き出す。
スタートから快調に飛ばす室屋。そして、エッジ540がコース全体の4分の3を過ぎ、最後の旋回に入ったときだった。川岸の観客向けに行われているレース実況の声が響いた。

〈Amazing time!(すごいタイムで来ているぞ!)〉

そして、ゴールゲートを通過。場内に公式記録が告げられた。

〈ナンバー31、ヨシヒデ・ムロヤ、1分10秒97、ノーペナルティ〉

この公式記録は、無線を通じてパイロット本人にも伝えられる。室屋はタイムに続いて告げられた自身の順位を聞き、思わず自分の耳を疑った。

〈セカンド プレイス(2位)〉

ゴールゲートを通過した瞬間、「悪くないな」とは感じていた。とはいえ、「2回目のトレーニングで落ち着くことができたし、予選でトップ10に入れれば、ワイルドカードを飛ばなくていいな」という程度の気持ちで臨んだフライトである。実際、そんなに攻めている感覚もなかった。それが、14人が飛び終わっての2位だったのだ。

「結果的に、欲を出さなかったのがよかったのかもしれない。それにしても……、えっ、2位?って感じでした。あ、ガッツポーズしなきゃ。テレビに映ってるし、みたいな(笑)」

予選2本目も、1本目のタイムをわずかに下回ったものの、室屋は「技術的なペースを構築するという意味では、安定性は上がっていた。感覚としては1本目よりも良かった」と振り返る。
結局、2本目で2人に抜かれたものの、自己最高を大きく上回る4位で予選通過。初めてワイルドカードを経ずして、トップ12進出を果たした。
そして何といっても、トレーニングフライト2本目から通算3本連続ノーペナルティ。
その手応えの大きさを表すように、川岸に設置された大画面には、1本目よりも大きな室屋のガッツポーズが映し出されていた。

微妙なジャッジに泣く

望外の順位。だが、4位という順位はこれを保てば、ファイナル4に残れることを意味している。当然、決勝レースへ周囲の期待は高まった。

室屋自身も「落ち着いてやれば、スーパー8は行けるだろう」との手応えを感じていた。それでもタイムに目を向ければ、10位との差ですら、わずか1秒46しかない。ひとつのミス、ひとつのペナルティで大きく順位を下げてしまう可能性があることも、十分理解していた。

予選4位で勝ち進んだトップ12のフライト・ムービー。 見事なフライトだったが、わずかな姿勢補正がペナルティを招く結果に…。 ジャッジは厳正かつ公正であるとはいえ、すぐに気持ちを整理することは容易ではない。

「自分としては熱くなったつもりはなくて、ちょっと抑えるくらいのつもりで行ったんですけど。結果としては……」

トップ12でのフライト。室屋はシケインでコース取りが数mズレているのに気づいていた。次のゲートは目の前。修正すべきか、それとも――。
「そのままでも、たぶん通れたと思います。でも、ギリギリだな、と。ちょっと迷ったんですよね。それで、少しよけたんです」
室屋はわずかに機体を傾けて修正すると、すぐに機体を水平に戻してゲートを通過した、ように見えた。だが、「ビデオで見ても、僕はセーフだと思ってるんだけど」という微妙な通過は、水平には角度オーバーとされ、ペナルティと判定された。納得のいかない室屋陣営はレース後、当然抗議したが、一度下されたジャッジが覆るはずもなかった。

1分10秒77。タイム自体は予選からコンマ2秒詰めている。楽々とスーパー8に進出できるレベルだった。しかし、ペナルティの2秒が命取りとなった。予選4位の歓喜から一転、室屋は10位に沈んだ。
最大のターゲットとした第5戦は、トップ12セッションで終焉を迎えることとなった。

最初はジャッジへの不満ばかりが先行した。だが、冷静に考えれば、ファイナル4に残るようなパイロットのフライトにはわずかな乱れもないのだ。

「タイム的な余裕がなくなって、それまでならコンマ1秒休めるところが休めなくなってくる。そうなると、ミスがあっても、どこかで引き戻す余裕がなくなる。結果として第4ゲートでペナルティを取られたんですけど、フライトの乱れはもっと前から始まって、積み重なってのことなんです」

結局は自分の責任。そうは言ってみても、簡単に納得できるものでもない。

「でも、失敗した自分が悪いんだという気持ちと、これでペナルティを取られるのかっていう割り切れない気持ちとで、何かこう……」

室屋は複雑な感情を吐露した。すぐに気持ちを整理することは難しかった。

「僕は実質、このポルトからしか本当の意味ではレースに参戦してないと思っているんです。何度も自分に言い聞かせてきましたが、自分に納得が行くまでは、すべてを実戦トレーニングの場としてフライトしてきました。これまではレースに出ても、必ずどこかぶつけるんじゃないかと、脅えるみたいな感じで。要するに“レースに出場している”というにはおこがましいレベルだった。でも、今はそういう恐怖心がまったくない。フライトの安定感はケタ違いに上がっているんです」

今回のポルト戦から、“本当の意味でレースに参戦している”室屋だからこそ、結果へのこだわりも今まで以上のものを覗かせたのだろう。逆を言えば、これまでがクール過ぎたのかもしれない。
確かに、予選4位通過を考えれば、10位でのフィニッシュには物足りなさが残る。ただそれでも自己最高順位。確実に室屋が前進していることの証なのだ。

今シーズンのレースも残すところ、1戦のみ。シーズン前に室屋が掲げた8ポイント獲得という年間目標を達成するためには、7位に入って5ポイントを獲得する必要がある。言うまでもなく、さらなる自己最高順位の更新が求められる。だが、今の室屋にとって、それはもはや手を伸ばせば届くところにある、現実的な目標となっていた。

 

バルセロナでの最終戦。室屋は初のスーパー8進出をかけ、ラストチャンスに挑むことになる。

 

 

ワールドチャンピオンシップもラスト2戦!
ポルト戦の戦績

http://www.redbullairrace.com/cs/Satellite/en_air/Table/

 

レッドブル・エアレース ワールドチャンピオンシップ2009の途中経過

 

Profile

Yoshihide Muroya

屋義秀

1973年1月27日生まれ。エアロバティックスパイロットとして、現在まで140か所に及ぶエアショー実績を誇り、無事故。昨年11月、アジア人初のレッドブル・エアレースパイロットとなり、今年からレースに参戦中。ホームベースであるふくしまスカイパークにおいては、NPO法人ふくしま飛行協会を設立。航空文化啓蒙や青少年教育活動の基盤を作っている。ファウスト・エアロバティックスチームのスーパーバイザーに就任。

◎レッドブル・エアレース参戦直前のロングインタビューはコチラ

Data

レッドブル・エアレース

http://www.redbullairrace.com

室屋義秀ブログ

http://teamdeep.exblog.jp

Team Yoshi Muroya

http://yoshi-muroya.jp/

 

Cooperation:Red Bull Japan
Photo:Taro Imahara at Red Bull Photofiles
Text:Masaki ASADA
2009/12/03

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大空の覇者へ!

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