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一夜限りのピアニストたち
~アート&カルチャーチーム、サントリーホールへの挑戦~

ピアノ曲を華麗に弾けるようになりたい……。そんな夢を抱いてスタートしたアート&カルチャーチームの挑戦。「ド」の位置さえ曖昧だった彼らが、サントリーホールでの発表会を迎えるまでの軌跡には、困難と共に、常に笑顔があった。

スタート直後の大震災…それでも挑戦を決めた

2011年、2月。都内某所にてファウストメンバーが集い、一つの決意を固めた。
「ピアノ初心者が3か月でピアノ曲を一曲、弾けるようになること」
アート&カルチャーチームキャプテンの吉川登はそう宣言した。さらにその発表の場として選んだのは、国内屈指のクラシックの殿堂「サントリーホール」。引き返せない挑戦への宣言をした彼らは、その時点でピアノに触ることさえ初めてだった。



左から鉢嶺、堀、浅野、吉川。

無謀とも言えるその指導を請け負ったのは、新世代のクラシックピアニストとして注目を集めている武村八重子。もちろんプロである彼女に、勝算がないわけではない。「初心者を三ヶ月で1曲弾けるようにする、秘密の“武村メソッド”があるんですよ」とほほ笑む。ショパン弾きとして名をはせる彼女を前に、吉川が選んだのは、ショパンの中でもとりわけ愛される「別れの曲」である。
しかし、最初の一歩は惨憺たるものであった。
「ドはここですよ。左手はこっちに置いてください」
「ええと、ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド・・・と」
武村の指導の声もつい緊張を孕む。人さし指一本ずつで鍵盤を叩く彼の姿からは、数か月後のサントリーホールは想像すらできなかった。
そんな不安ばかりのスタートを切り、武村メソッドによるヨチヨチ歩きのレッスンが始まってから、わずか一ヶ月。3月11日、あの東日本大震災が起こった。
当然、レッスンは中断を免れなかった。
吉川をはじめ、チームメンバーである浅野則之、鉢嶺登、堀主知ロバートら4人は一時、断念か決行かを話し合う。未曾有の大震災の発生を受け、企業経営者として、ビジネスリーダーとして、彼らが対処すべき緊急の責務は山となってのしかかっていた。
「これはもう、諦めるしかないのか……」
しかし、ファウストの精神は、飽くなき挑戦。ビジネスにおいても、プライベートにおいても、常に前を向いて行かなければならない。
「やはりトライしよう。挑戦するため、前進することに意義がある」
彼らは再び、果敢にもピアノに向き合った。それぞれの世界で第一戦で活躍する彼らは、日々の忙しいスケジュールの合間を縫うようにして、武村のレッスン予約を入れ、時間をやりくりして練習を積み重ねた。
限られた時間ではあるが、やるからには恥ずかしい姿は見せられない――。
少しずつ、しかし根気よく、武村に叱咤されながら、あきらめずにピアノに向い続け、気がつけば、遂にその日を迎えていた。

当日の舞台裏、緊張を紛らわせようと冗談を言い合いながら出番を待つメンバー たち。

From Faust A.G. Channel on [YouTube]

宣言がなされた決起会から苦戦した練習、そしてサントリーホールの舞台裏から発表までをダイジェストで!
★【YouTube:FaustA.G.チャンネル】でもご覧いただけます(スマートフォンの方 はこちらがオススメ)

緊張にのまれ乗り込んだサントリーホール





11月14日。この日、サントリーホールに現れた吉川たちアート&カルチャーチームは、開場前からホールを落ち着きなく歩いていた。
「心臓が止まっているような感じがするよ」と、堀は笑う。
吉川はやや固い表情で緊張をうかがわせた。「ステージで頭が真っ白になったらどないしよ」。
「一番バッターだから超緊張するよ! でも逆に僕がうまくいったら、みんなにプレッシャーかかっちゃうんじゃない?」と鉢嶺。
浅野は「まあ、なるようになるでしょ」と落ち着いた様子。
当日は、武村八重子×直居由美里のチャリティコンサートが第一部として開かれており、その第二部としてファウストのリサイタルを予定していた。第一部のコンサートを堪能した一行は、席を立ち、舞台裏へ。カジュアルな服装から一転、タキシードに着替えると、それぞれが練習を積み重ねてきた楽譜を手に、舞台袖へと向かう。
いよいよ開演である。
ステージで自ら進行役を務める、“師匠”である武村の紹介に応え、トップで舞台上のピアノの前へ進み出たのは鉢嶺だ。
「かつてピアノを弾いてみたいと思ったことはあったけれど、続いたことはありませんでした。今回は半年もよく続けることができました」
と、感慨深げに語る。
「最初はどうなることかと思ったけれど、練習の度に少しずつ上達してきましたよ」
と、武村に言われて恥ずかしげに俯く。固い様子でピアノの前に座ると、ゆっくりと弾きはじめた。曲は「ジムノペディ」。エリック・サティの名曲だ。ゆっくりと慎重に、しかし最後まで弾ききった。立ち上がった彼には惜しみない拍手が注がれ、鉢嶺はホッと息をつく。
続いて登場したのは、キャプテンの吉川。
「最初に謝っておきます。すみません」
と、頭を下げ、場内をどっと笑わせた。傍らに立つ武村に「間違えても、曲の途中でおひざの上にお手を置かないでくださいね」と、優しく注意され、はい、と少年のようにうなずいた。
弾きはじめた「別れの曲」は、かつてドの位置さえ分からなかったとは思えぬくらい、滞りなく流れた。最後まで弾ききると、大きくため息をつき、拍手を浴びて満面の笑みを浮かべた。
3人目の浅野は、堂々とした風情で舞台上に上がる。タキシードを着こなすと、さながらプロのピアニストのように見えた。しかし彼もまたピアノは初心者だ。
挑戦したのは、坂本龍一の名曲「戦場のメリークリスマス」。繊細な曲調に、ドラマの名シーンが蘇る。途中、楽譜が落ちるハプニングもあったが、無事に弾ききった。
「ちょっと途中で間違えてしまったので……」
と、浅野は戸惑いを見せながら、足早に舞台を後にした。
そして最後に堀。
「最も優秀な生徒さんなのです」と、武村。
「彼もまたドの場所から始めたのに、ここまで弾けるようになるなんて。本当に努力の人だと思いました」
という武村に、堀は照れ笑いを浮かべる。そして、手にしていた楽譜を閉じてピアノに置くと、暗譜で弾きはじめた。楽譜は半年ではいまだ、読むスピードが演奏スピードについてこないからである。曲はベートーベン「悲愴」。曲を弾きはじめると、会場内からどよめきが起こる。初心者とは思えない繊細な表現で、最後の一音までほぼミスなく弾ききった。
観客は一斉にスタンディングオーベーション。
ぱっと安堵の表情を見せる堀、ほどなくステージ上へと姿を現した鉢嶺、吉川、浅野。それぞれが、それぞれの感謝の意とこれまでの練習の苦労を語った。





それぞれのサントリーホールまでの道のり



 演奏を終えて拍手喝采を浴びた時の感慨は、四人とも一入だったようだ。トップバッターとしての大役を果たした鉢嶺は、その表情も緊張から一転して柔らかくなった。
「この前の週末に、初めて自分の演奏を録音して聞いてみたんですよ。あまりにもイケていなくて、慌てて練習しました。当日はまだまだ練習の何分の一しかできていないのが、残念でした。でも、それでも一曲、憧れのサントリーホールで弾ききったのは嬉しい!」
素直な喜びが湧いているようだった。
ラストを飾った堀も
「サイコー!気持ちよかった!」
と率直に述べた。
指導者として四人を見守り続けた武村は、惜しみない拍手を送る。
「普段は一流のお仕事をされている社長さんたちなんですが、こうしてピアノの指導をしていると、みんな可愛い生徒さん。陰で緊張している姿なんて、普段では考えられないと思います」
発表会を終えて、ほっとしているのは奏者のみならず、武村もまた同じだった。
鉢嶺はそんな武村に感嘆する。
「ともかく自主練習が嫌いで、なかなか家でピアノを触ることができなかったんです。だから、武村先生のレッスン時間のみでここまで仕上げることになりました。これまではピアノに挑戦しても続かなかったので、半年も続けられたことにびっくり。私をはじめ、個性的でわがままな4人の生徒をコントロールした武村先生がすごい」
最も優秀な生徒と言われた堀もまた、
「今回、最も凄いのは八重子さん。楽譜も読めない人たちをここまで育ててしまうのは、さすがプロ!」と、絶賛する。
堀は自宅のピアノで毎日「悲愴」を弾き続けており、
「子どもに『パパ、またその曲?』と言われて、飽きられていました。それでもこの曲が弾きたかった。舞台上では自分の指が震えているのが目に見えるほどで……音を通して、気持ちを伝えるという表現が何より難しかった。けれどやっぱりそれが面白いんですよね」
と、笑う。
吉川や浅野はこの挑戦のために急きょ、電子ピアノを購入。陰ながら努力を積み重ねていたという。浅野は
「(演奏中に)楽譜が左手の上に落ちてきて、それを払うしかなかったんだけど、そうしたらもう指をどこに戻していいかわからなくなって、頭が真っ白になりましたね。譜面は全部暗記しているからなくても問題はないんだけど、あれにはまいりました」
と少し悔しそう。
「大切なことは諦めないこと。この年になってからでも、何でもやればできるんだな、と分かった気がします」と、吉川は語った。
リサイタル終了後には、数人のファウストメンバーたちが、「僕にも弾けるかなあ?」と、恐る恐る武村に問いかける場面も見られた。聞けば、既に武村八重子ピアノ教室の門戸は叩き「ピアノを弾けるようになりたい」というファウスト二期生の演奏会も計画されているとか。

後日談だが、この吉川の挑戦は、後日開かれた「ファウストA.G.アワード チャリティ・イブニング」にて、2011年のファウスト最優秀メンバー賞に輝いた。

 

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